植物図入作句手引書
「誹諧名知折」
  編者は一陽井素外  安永十年刊
 
 江戸時代中期以降誹句作りは庶民の文芸として大いに流行し、句集、手引書などを古書の世界では誹書といって一つのジャンルとして蒐集家があり、研究者も多い。さてそうした背景の中で成立したのが本書で、「はいかいかなのしおり」と読む。編者は一陽井素外。画は北尾紅翠斉。安永十年、江戸日本橋の須原市兵衛の版、上下二冊本である。

 内容は植物百四十余種、鳥獣十種、虫類八種、魚類十二種が主として見開きに七〜八種づつ図示されている。又編者門人による例句が記載されている。図にない種類も季節毎に編集され広がりを感じさせる。

  少し引用してみよう
 犬子草 元気よし 里の日なたの 犬子草   梅郊
 木穉花 木穉の 花の香強し 雨上り     春郊
 鳥 頭 鳥かぶと 秋風楽は おのづから   梅寿
 縷紅(ルコウ)草 しどけなく 糸巻かけし 縷紅かな   其禮(キレイ)
 竜胆(リンドウ) りんどうや 鎌倉山の おもひ草  寛之
 われもかう 野は花の さかりや人も われもこう  素外
 貴船菊 九日の 祭りにかさせ 貴ふね菊   三糸

  動物では
 鹿の子 足よりは 耳の勝たる 鹿の児かな  宝馬
 きりぎりす きりぎりす 啼や霜とも 見る月夜  寛麗
 河鹿啼 かしか啼 声やすみゆく 水の秋   津宜

 私達花作りもたまには一句ものするのも一興かと思いますが。

  下巻題箋は「誹諧名能志乎梨」と万葉仮名でしゃれている。