活花に関する書物の内、比較的早期に出版された一書
「立華正道集」
  
 
 室町時代書院建築が完成され、床の間と云う空間に、絵画、飾卓、香、活花、燭などにより荘厳する新しい室内装飾の内、活花は更に発達し、花道芸術として確立し、思想と技術が桃山、江戸期へと世々受継がれ、江戸時代以降多くの花道流派が生れた。その源流となった池坊の門弟尋旧子、本名木屋権左衛門の編著である。内容は著者の序文に続いて一頁一図ずつ立華図八八図、砂物図十二、分解図五頁合計一〇六葉、本文は総論、各論四八ヶ條附四條、後跋から成っている。図はすべて木版刷に手彩色がなされた美しい本である。

 立華正道集序
 智者は水を好み、仁者は山をこのむ。瓶に花さして常に見るこそ心も楽しむ業なれ。陶淵明はひとり菊を愛し、周茂叔が蓮を翫(もてあそび)しも実にさることぞかし。誠に甘水尺樹を以て江山千里の風景をうつし、四時の変化木草の出生都(すべて)床間にあらはすのみ。粤(ここににおいて)故実の格式を具へて真草行の三体をわかち、其正しきを図して立華正道の一集となし待る事然而己。

 天和四年春芳節 尋旧子 とあり、図に見る活花のデザインもさることながら、花材の豊富さ、外来植物、品種の発達など多くのメッセージが伝えられ園芸的にも貴重な資料である。

 書誌的には、序文と同年の天和四年(1684)京都で出版「花鳥風月」の四巻四冊、亀甲花紋空押(浮出し)模様朱色表紙、題簽完存、状態の良い伝本である。
                               ( )内は筆者補