特用作物の栽培と利用製品の製造法
「廣益国産考」
  大蔵永常著  天保十三年、弘化元年
 
 本書は天保十三年に一〜二巻、弘化元年に三〜八巻が出版された。著者は浜松藩儒者大蔵永常。当時米麦、蔬菜中心の農業に対し、巾広い作物を栽培することによって、農家収入を増加させるばかりではなく、一国の経済をも潤すとして多くの特用作物の栽培と、その利用製品の製造法など詳細に記述されている。

 先ず序文の一部を紹介しょう。
総論夫(それ)国を富しむるの経済はまず耶由を賑し而し後に領主の益となるべき事をはかる成べし 第一成ば下にあり教ふるは上にありて定まれる作物の外に余分に得ることを教えさとしめば一国潤ふべし…(後略)

 そして国産となるべき品々は
 紙、楮、杉桧、櫨樹、油菜、紅花、砂糖、木綿、桑、琉球藺、漆、茶、麻、煙草、葛、蕨、草?、玉萄黍、芋、蕃藷、蜜柑、葡萄、藺、柿、梨、桐、党皈、川?、芍薬、蠶養、焔?、絹織、素麺など多彩で現今の一村一品の様相を呈している。

 写実の図は柿渋を製する図であり説明には次のようなことが記してある。
 柿は諸国に多くありて其品多しといども只園中に植えていたづちに口服を甘んずる所多し甘柿の類にては音大和の御所といへる村上り出たる御所柿を最上とす(中略) 甘柿は口近きものゆえ家居はなれては作りても盗難あるもの也 依りて屋敷内に甘柿を植少しはなれたる出畑に渋の大柿を柏手遠なる山畑の猪鹿兎等の出る所には小渋柿を多く作るべし かくのごとく心がけなば一ケ年に拾両廿両の金子は不毛の地にてとり入べし。