詳細を極める庭園ガイド本
「都林泉名勝図會」
  小川多左衛門刊  寛政十一年
 
 林泉とは庭園を意味し、寛政年間京都の代表的な庭園を絵と文で紹介した案内記。編者は都名所図絵などで有名な秋里籬島、画は西村中和、佐久間草偃、鳴く原貞章である。

 内容は寺社の名庭を始め個人公郷の庭に加え、それにまつわる催事、宝物、来歴などまで図入で祥細を極め楽し読みもにしている。

 序文は水竹居主人こと藤波季忠による
「山水ありて草木の枝葉をさかえしめ 草木ありて山水の風景をよそほふ 是をのづからなる文質とやいふべからむ いにしへより山水をこのむ人おほかれど さるところく 貝めぐりつくすことを得ず ここに秋里籬島といへるもの 花洛林泉の名たたるをことごとく画にうつさしめ 

 その故実由縁をもくはしく書あらはせり されば都の人すら名のみ聞及ぶにも見ずしらぬところのここらあなれば 貴賎老幼も車馬能いたはりなく居なから幽邃の風景をめでたのしませむの心をあこしてあづさにちりばせるこそ まことにおほかたならぬ雅趣なりけれ 簡文帝の華林園にて心に會するところは 何ぞかならずしも遠きにあらむや

 翳然たる林泉おのずから濠濮間の想ありと のたまひしにおなしおもむきなるべし 彼図會ついに五冊の双紙となして 同好の人にひろめあるは はるかなるさかひにおもむく つとにもなりなんとおもひよりし こころさしのまめやかなるを感じて つたなき言葉をかいつけ待る 寛政とをあまりひととせの春 水竹居主人書」とある。

 本書刊行以来二百年の歳月が経過した平成の今日尚多くの林泉が守り受継がれているのは嬉しい限りである。

    五巻六冊 寛政十一年
    皇都六角堂御幸町 小川多左衛門刊
    巻一坤見開き
    京六条堀川西本願寺対面所前庭
 この庭園は一般公開されていないが1997年蓮如上人五百回忌法要参詣ツアーに参加して拝観することができた。この図の通りに現存していて大いなる感動を覚えた。