我国最初の園芸植物事典
「花壇地錦抄」とその増補版
  伊藤伊兵衛(三之蒸)著  元禄8年
 
 本書は我国の江戸期の観賞園芸植物を語る上に於いて、最も重要克つ基本書籍として位置づけられていることから、もっと早くご紹介すべきであったと反省している。

 さて、花壇地錦抄は、江戸近郊、染井の植樹家、伊藤伊兵衛(三之蒸)著、江戸大伝馬町の志村孫七によって開板された(江戸版)。 全六巻五冊(四・五巻合冊)。この書籍は、図はなく、ボタン、シャクヤク、ツバキ、サザンカ、ツツジ、サツキ、ウメ、モモ、カイドウ、サクラなどの花木数を始め草本数でほキク、ナデシコ、ユリ、ラン、アサガオなど種類と品種の特徴が記され、植え替え、培養土、肥料、草木の種類別の栽培ポイントが明らかにされている。当時この本はよほど売れたのであろう、時を移さずに、京都車屋町 林久次郎によって翻刻された。(京都版)

 続いて当書が増補され一部図が挿入されて八巻八冊本として宝永七年に江戸須原屋茂兵衛によって開板された。

 更には続巻として廣益地錦抄の名に於いて、伊兵衛政武によって八巻八冊が追加された。内容には園芸植物だけでなく今日で言うハーブ類半分のスペースをもって記載されているところに注目したい。
 尚続いて地錦抄附録として、享保十人年に伊兵衛政武よって追補された、従って増補八巻廣益八巻、附録四巻合せて二十巻二十冊で一具として完結しすべて江戸日本橋の須原屋茂兵衛の開板であり、その後長い期間園芸書のベストセラーとして多くの人々に読まれ続けている。近代に於いても、活字版として昭和八年から十六年にかけて、地錦抄、同増補、廣益の十六冊分が、京都園芸倶楽部より又昭和五十一年、平凡社東海文庫288に花壇地錦抄、草花絵前集と同本で翻刻されている。