農作物、園芸植物の栽培全書
「草木育種」  (そうもくそだてぐさ)
  岩崎常正著  文政元年
 
 本書の著者は「本草図譜」の著者と同じで、岩崎常正(号灌園)文政元年の出版である。常正は幕臣の本草家、内容は屋代弘賢の和文序、本人の漢文序に続き、凡例には七項目に分けて著者の基本的な考えを示す。

 例えば一番最初の部分では、一草木手入の事は上巻に十四ケ条を分て種樹の要用を著す。その時節においては不同、仮令は南国は早く、北国は遅く又東西によりても寒暖あり、況本邦と漢土と時節相違ある事知べし。ここにしるす処の時は、東都(江戸)において宜一時を述。某 国々によりて考べし。
とあり、本文には、草木の徳をしるす。

 草木に陰陽ある事、土地の善悪並水之事、草木に吉日凶日並宣と忌と事、下種(たねまき)の事、澆灌(こやし)培養(つちこしらえ)の事、接法(つぎき)、裳附(さしき)庄條のこと、移樹(うえかえ)並代木(きこり)のこと、登盆(はちうえ)の事附養花押瓶(いけばなみずやしない)の法、除虫法並虫図、暑寒風雨霜雪の節心得の事、唐室塗垂(とうむろぬりだれ)の事並図、種樹(うえき)運送の事。巻之下は各論で百八十五種を記す。

 ここでは接木の項を紹介する。
 接法の事並図 接法には六通り有とし、即ち、換接(きりつぎ)、高接(たかつぎ)、庄濱(よびつぎ)、身接(はらつぎ)、皮接(よせつぎ)、劈接(れりつぎ)、塔接(そぎつぎ)、挿接(さしつぎ)、水つぎなどそれぞれの接様とそれに向く草木の代表的種数を例として記してある。例えば

● 身接(はらつぎ) 是は夏など接に砧(だい)の切口より、一寸も二寸も接口をさげて接なり。夏は木の勢く枯れくだるゆえなり。百両金(たちばな)、大山れんげ、ほうの木の類皆腹(はら)へ接なり。などと書かれている。