「桜花図巻」
  広瀬花隠
 
サクラの品種は1600年代に入ると京都や江戸に於て急速にその数を増し、1850年頃には二百数十種に及ぶ。そうしたサクラの品種を正確に写生して絵画的な作品や、図譜的な資料が数多く伝えられている。

 その一つとして「桜花図巻」がある。作者は広瀬花隠、花隠は京都の人 名は自勝初め狩野派に学び、後にサクラの画家として名のある三熊花顛(みくまかてん)に師事し、サクラの写生画を多く世に残した。文政三年(一八二〇)没。特に「六六桜譜」、「三十六花撰」などが作品として著名。当図巻はそれら作品を制作する為の図稿を集めて一巻となしたもののようで、本紙の天地53cm、長さ683cm、作品は何れも実物大に画かれ、中には大き目の枝が画かれている図などはその一部分が彩色されていて、あとは素描のままである。作品として画かれている「六六桜譜」など類型化された作品より迫力がありよく桜を写していると私は見ている。

 画かれているのは五一図四十九種で次の通りである。
 浅黄、御衣黄(ぎょいこう)、千本(ちもと)、夕栄、松ノ月、嫩木(わかき)、暁、一葉、芳野、桐谷、御車還、西行、辨殿(べんでん)、法輪寺、白山ノ旗、鷲の尾、塩釜、千里香、名嶌(なじま)、小督(こごう)、醍醐、浅黄絞、御衣黄(重)、布引廊間(ろうま)、泰山府君、芙蓉峰、王昭君、薩州緋、紫、小町、丁子、糸括(いとくくり)、駒留、薄墨、御室、、初瀬山、金王、蘭麝室(らんじゃたい)、玉簾(たますだれ)、小塩山、大菊自延命、瀧、月暈、名嶌(重)、紅延命、鞍馬山、駒繋、地主(じしゅ)、普賢象、以上で今日も栽培されている品種が半数以上ある。