琵琶三名器命名の由来すりもの
「長生草 琵琶三名器命名」
  城攝江 社中  嘉永五年子霜月
 
 琵琶三名器とは、醍醐天皇の御世に中国から伝えられた弦上、青山、獅子丸の三面を指す。

 長生草とは石斜(セッコク)のことで、文政初年頃から京都、大坂、近江を中心に関西地区で栽培が流行し、やがて江戸でも愛好者が急増、品種も急速に加増した。そうした中で、表記琵琶三名器の内、獅子丸、青山はその名にふさわしい銘品が見つかって名付けられたが、弦上は漸く嘉永五年、短幹で太く、葉には白覆輪に黄色の縞模様のある品が見つかり命名され、三名器の名が揃った時の披露刷ものである。版元は、城攝江社中とあり京大坂近江の三都連合である。三種にそれぞれ和歌が添えられている。

 獅子丸「時を得て しづまりありし 獅子丸も あらはれ出て 四方にいきおふ」
 青龍改め 青山「今までは ひそまりありし 青龍も こたび世に出て たちやのぼらん」 
 弦上「うちよりて 弦上の書をや 君た ちの いくつまでもと なりや渡らん」有幸  とある。

 さて話は余談であるが、2002年7月、東京国立能楽堂に於て観世流能「玄象(げんじょう)」(観世流ではこの文字を当てる)が、シテ武田志房、ワキ宝生欣哉らによって演じられ観る機会に恵まれた。能は、藤原師長と琵琶の名器にふさわしいしっとりとした情緒のある物語の転回に暫しの浮世を忘れることができた。

 嘉永五年子霜月 城攝江 社中 絵は東山清亮写とある。