お駕の中に吊り草姿や花の香りを楽しんだ
「風蘭譜」
  
 
 江戸時代1700年代後半から尾張の瀬戸や肥前の有田などの陶器の産地で植木鉢の生産が盛んになり、鉢植えとして楽しみやすい手頃な大きさの小低木や多年草が観賞目的とした園芸植物として次々と取り上げられた。

 風蘭もその一種で、学名はネオフィネティア・ファルカータ。我国の本州中部以西の山中、大木の幹や枝に着生している常緑多年草ラン科植物である。形態は巾1cm長さ5〜10cmの細く厚肉革質の葉を二列に互生密着し、時々下部から子株を生じ、やがて大株に成長する。花は前々年生長した葉聞から一〜二本の花茎を出し、三〜七輪の白色小花を夏期に咲かせる。開花期間芳香を放つ。

 元禄からの園芸の高まりと共にこのフウランも花形、葉形の変異を求めて山野を跋渉し、樹上に登ってより珍奇なものの品種数を余々に増加させて来たことであろう。

 特に文政、天保の頃ともなるとその数は数十種を越し、フウラン専用の通気性を考慮した植木鉢も造られるようになり、上は大名から、町人に至るまで愛好家は増加した。ある西国の大名など参勤交代に道すがらお駕の中に吊り草姿や花の香りを楽しんだとか。

 さて本書には奥書きはなく、題簽は銀砂子科紙に「風蘭譜」と墨書きされ、下部に「珠庵題」の署名と「佳一」の宋字角印があり、巻末表紙裏に「尼崎京船屋茂兵衛」の蔵書黒印がある。

 製作者は本書とは別の資料に秋尾亭蒼山の著名人りフウラン図に酷似しており、同人の稿本又は写本であろう。記載品種は、都錦、真矮鵜、淀之雪など二五種である。