江戸時代のシンビジュウム図譜
「釼蘭花鏡」
  編著者、成立年代共に不明
 
 「国書総目録」(岩波書店刊、明治以前即ち江戸期までに我が国で成立した書物の目録) によれば 「釼蘭花鏡集」とあり、編著者、成立年代共に不明、国会図書館と東京都立中央図書館に蔵すとあり、出向いて両書共確認したが当文庫蔵本と同系の写本であった。

 江戸時代には蘭の字は、本来フジバカマに当てるべき字であるが、寰嘯ニ同様ランにも当てて用いられている。念のために諸橋の大漢和辞典を見るに、「蘭=らん、イ・菊科の香草の名、ふじばかま‥ ‥ ロ・蘭科の香草の名数種あり一茎一花のものを春蘭(しゅんらん)といひ、一茎数花のものを尢魔ニいひ、心の白いものを素心蘭といふ。又福建省には秋に開花する蘭がある 之を建蘭といふ。・・・」 これにより、蘭、宦A建蘭の区別がはっきりする。

 又これとは別に蘭、宸ネどの実に斑が入ったものを総称して葉蘭(ようらん) と呼んだ。(ハランではない) さて度々引用する「花壇網目」によれば、春蘭、大蘭などラン科植物はいくつも解説し、栽培上の項目にも蘭を項目立して養土、肥料、置き場、水やりなど詳しく書いていることから、江戸中期には相当の愛好家があり、日本産を始め、中国産の種類も数多く栽培されていた。

 本書は、本文全九丁(十八頁)各頁に一図づつが彩色で描かれている。品種名は左の通り 覆輪春蘭獨頭蘭ト云 春蘭ノ内双頭蘭 黄縞蘭鍛冶屋蘭 楊貴妃小蘭 寒鳳蘭 紅寒蘭 紫寒蘭 玉?蘭?玉 也 寒蘭 青寒蘭 素真蘭報歳蘭 金陵辺 唐春蘭 博蘭 春鳳蘭 覆輪蘭古今輪 以上十八種である。