清水基夫先生遺愛の図巻
「駒場薬園百合花培養図」
  栗本瑞見著  文政九年
 
 この図巻の著者は栗本瑞見、文政九年彼七十一歳の写生と考えられる。瑞見は江戸中期の博物学者、田村藍水の次子として生まれ、後近江の栗本氏を継ぐ。寛政二年幕府奥医師を任ぜられ法眼に叙された。一方医学館で本草学を講義し、動植物を研究し「蟲譜、皇和魚譜、蟹蝦類写真」など精密な図譜を残した。

 本書は幕府薬園中のユリ類を図写したもので、二十三種が画かれている。内容次の通り。

 自早山丹花(白ササユリ)紅筋(ヤマユリ変種)平戸、自黄(ヤマユリ)黒中逢花(クロユリ)赤煉(スカシユリ品種)博多山丹花(ハカタユリ)赤姫、山中逢花(ヤマユリ変種)、夏洗(スカシユリ変種)、紅萎?(べにいずい)(カノコ)、白萎?(しろいずい)(シロカノコ)、八丈谷百合(サク)、紅早百合(ベニササユリ)、峯の雪(シロカノコ純白種)、鳳凰閣(スカシ吹詰咲)、高砂(長太郎か)、車山丹花(クルマ)、鉄砲百合(現タカサゴユリか)、墨流(スカシ品種)、烏羽中逢華(ウバユリ)、八重鬼百合、鶴田山丹花(葉が爪白のテッポウユリか)以上。巻末奥書に「文政丙戌(ひのえいぬ)駒場薬園中栗本瑞見(花押)」天地三十センチ 長さ六センチ紙装桐箱入りである。

 旧蔵者はユリの研究家として第一人者であった清水基夫先生。筆者は先生が愛知県清洲園芸試験場にご奉職の頃教えを受け、以降ご実懇にしていただいたが、昭和六十二年春、花博を見ずして逝去されたのは惜しまれる。ご葬儀のあとご長男が態々拙宅をお訪ねいただき先生のご遺言によるとのことで、本書の他数点の貴重書をお届けいただいた。感謝と共に日本の園芸界の宝として大切に保管させていただいている。