我国最初のオモト図譜
金生樹譜・万年青部
  栗原信充  天保四年六月序
 
 本書は三十六品種の木版多色刷のオモトの本格的な図譜である。著者は長生舎主人となっているが、慶應大学の磯野直秀名誉教授の論文によれば、幕臣で故実家、栗原信充、通稱孫之亟、字伯行、号柳庵・蜉t、屋代弘賢編纂「古今要覧稿」の編集に参画した一人として知られているという。天保四年六月の著者の序文があり、この年の出版であろう。

 序文の一部を意訳すれば「万年青を栽培することは、寿命が伸びることはいうに及ばず、年々実生を行へば、五両、十両に評価されるような株の出現すること度々であり、更に又実を結び、なお新種の出現に結びつく。こうした有難い現象は神農様もお釈迦様もご存知なく、その証拠に五千巻にもあまる経文にその事は書かれていない。この日の本のみに吹く神風であり、福寿無量の黄金花の流行である・・・・」大変な熱の入れようであり、当時の流行ぶりを知ることができる。

 と同時に、このようなキャッチコピーを旗本たる武士が出版物の序文に書き連ねていることは、我々が教科書で教えられた武士観と大部異なったイメージであるように思われるがいかがでしょうか。

 さて内容は三十六種の品種名の目次に続き、一頁一種鉢植えの状態で描かれ図示されている。品種の作出者名か所持者のいづれかと思われる名をも示されている、又最書の図には「写真みな縮図十分の一大きさと看たもうべし」と記されている。一頁の大きさはタテ23cm、ヨコ16cmである。