世界に誇る斑入植物図譜
「草木錦葉集」
  水野忠敬著  大岡雲峰、関根雲停画  
 
 本書の著者は水野忠敬(ちゅうきょう)。江戸四ッ谷に住し幕臣として五百石を領し、斑の植物、矮化、異形の植物を集め研究したその一大成果である。図は大岡雲峰、関根雲停が画き、前編三冊、後編四冊全七冊である。

 収録植物の名をいろは分けし、前編巻之一は「いろはにほ」まで、巻之二は 「とちりぬるを」巻之三は「かよ」である。後編の巻之四は「たれそ」、巻之五は「つね」、巻之六は「ならむ」まで。そして第七冊目として緒巻之次として前編巻之一に記載できをかった栽培法や植物の来歴など詳細な記述がなされ、当時の園芸事情と著者の本書への思い入れが伝えられている。

 昭和五十二年青々堂発刊による本書の復刻本並に解説書によれば、忠敬は本書の編輯にあたり、三千種に及ぶ細密図と詳細なデータを整理していたそうである。おしむらくは、本書の続編三巻「ういのおくやま」までと、終編三巻「けふこえてあさきゆめみしえひもせす」が未刊に終ったことである。私見ではあるが、世にいう天保の改革や飢饉が原因であろうと想像している。

 図は写真で示すように斑入り部分は白抜き、緑を黒で表現している。こうした作図は葉の表裏に用いた 「華彙(かい)」など先行事例はあるものの実に美しい作図であり、見飽きぬ楽しさがある。

 既刊分の版木は幕末の混乱期に散逸せず、明治十三年、水野忠敬翁の肖像画が銅版画によって加えられ再刷、その後数回印刷された模様で、最後は昭和十九年京都大雅堂から浅井敬太郎解説書を付して再刷された。もし大雅堂に版木が残されていたら、重要文化財の指定を受けてもよいとまで思っている。