奇の文化を代表する植物の雄
「松蘭譜」
  深見延賢(玉青堂)著  天保八年(1837)
 
 江戸時代末期に園芸界で流行した一つの文化に「奇」の文化がある。その奇の文化を代表する植物の雄として、松葉蘭があり、本書はそのマツバランの品種並びに発見産地、或いは別名など図入りで紹介された書物の一つである。著者は三河の人、深見延賢(玉青堂)。天保八年(1837)、上下二冊。絵は貫河堂なる人、彩色刷表紙もマツバランの品種名が空押(からおし=浮き出し模様)になった大変凝った造りの美本である。

 記載品種は、「写本松葉蘭譜」と重なる品種が多いが、全八十九品種に及び、棒竺之部、寄物之部、捻竺の部、金明竺之部、ちりめん縮緬之部、きりんかく麒麟角の部、折鶴之部、雑竺之部の八つの部類に分類してある。

 序は漢文で大田敦晴軒が選し、次いで賀茂季鷹、竹村茂雄が寄せ、自序があり、編者の幅広い友好関係をも知る事ができる。編著者の深見延賢は三河の住人のように見えるが、或いは名ある旗本で江戸住まいであったとも考えられる。今後の研究に待ちたい。