「錦蘭品さだめ」
  天保十年刊
 
 錦蘭(ニシキラン) は江戸時代後期、天保年間以降に江戸をはじめ京、大阪などで栽培が大流行した。

 天保十年に刊行された「錦蘭品さだめ」と題した小冊子は、当時国内各地で発行された番附や開催された展示会の出品記録などを集めたもの。その一部の見開きを紹介する。

 題名は 「東都撰錦蘭相撲見立」天保九年、内容は大関東が日之出鶴へ西が玉光錦から以下全四段八十五品種が並び出品者の住所なのか品種名の上に江戸とか大阪とかの文字が見えるが、東都とあるので江戸が大部分である。
しかし中には大坂、京、池田、勢州などの地名も見えその人気の広がりを物語るものと見受けられ、番附集として彦根での発行も集録され更に巾広い栽培人気を知ることができる。

 一方もう一つの資料として、「錦蘭一名豊年草」は弘化二年正月に彦根に於て開催された展示会記録であり、出品総数六十種、その出品地域は驚くべき広さで、江戸、尾張、美濃、彦根、長濱、河内、奈良、京、大坂などが並び、当時の交通事情を争えるとそのエネルギーの大きさを感じ驚きである。

 さて錦蘭とは何ものと思う方もあろう。現在では馴染みの少ない名であるが、日本の本州関東以西の山地の林床に自生する「シュスラン」とか「ミヤマウズラ」などラン科の多年草を総称した名である。草丈数センチ夏から秋に小さな花を数花つけるが余り美しいとは思えず、ただ葉の斑入や葉変り品を珍重した。