江戸後期の園芸書
「金生樹譜」(きんせいじゅふ)
  長生舎主人(栗原信充)著  天保4年6月序
 
 本書は元来、万年譜、松葉蘭譜(以上2冊は刊行)、福寿草、百両全、蘇鉄、南大燭譜、石斛譜(以上五点は未刊に終った)の七冊のシリーズ本の別録として出版された。

 著者は江戸の園芸家長生舎主人(栗原信充)著。上中下の三冊、須原屋左助刊。上刊は盆栽に力点を置き、中国南京、官窯、交趾、阿蘭陀産、国産は京焼、京楽焼、伊万里、最も図の多いのが尾張(瀬戸物)で深浅丸角、変形ものなど多彩、模様もさまざま有り、当時江戸に於て瀬戸焼の鉢は重要な役割を果たしている様子が伺える。続いて敷板、塗台、机、飾棚、遠くへ運搬する箱、室内用唐むろ、野外用の保温の工夫、今日の温室の役目をした岡室、採光には障子を用い、暖房は池田炭を用い陽気を得るに至る。

 中巻は松、柳、梅の各地の銘木を図説し、下巻は繁殖法として、接木、庄条(とりき)、挿木、実生、野山篭(採集用)、盆具(はちうえ用道具類)、上こしらへ(培養土)がそれぞれ図と共に詳細な解説がある。

 例えば接木の方法に、切接、割接、そぎ接、腹荏、変わったところでは連接、草もののオモトやキク、アサガオなどもすでに接木によって珍しい品種の増殖を計ったのである。

 道具類は野山篭が面白く、野山への採集時のナップザックのような役目もなし、ハサミ、カマ、根切、ハケは薬用、茎用、虫用があり、水打ヒシヤク、承露(如露)は竹製、木製、銅製などがある。