幻の多色刷薬草図譜
「百花図纂 草花部」
  坂本純庵著、浩然画  天保六年
 
 本書は、紀伊藩医坂本純庵著、次子純澤(浩雪又は浩然と号した)画、天保六年に五?楼蔵板によって関板された木版多色刷の大変美しい図譜の一つである。

 序は著者純庵の筆になり、漢文で認められているが、後跋は和文で同意のことが表現してあるので初めの部分を紹介しよう。

「唐ノ陳蔵器力云百州ノ花ヲ探リテ服スレバヨク百病ヲ治シ又長生ス 神仙傳云鳳綱(ホウコウ)トイフ人百草ノ花ヲ採リテ精製シ卒病ノモノニ用ユレバ立トコロニ癒ユ 余モ又政庚寅(天保十三年)ノ秋創(ハジメ)テ百花ヲ採り製シテ錠トナシ衆病ヲ治スルニ其効神ノ如シ 故ニ今?花ノ奇香アルモノヲ擇ヒ綱目(本草綱目)ニヨリテ一二ノ主治ヲ述次子純澤ヲシテ画カシメ書肆(出版社)ノ需二應ジシメ梓二上スノミ」 (後略) 

 こうして本書には三十六種即ち、 黄ギク、白ギク、オニアザミ、ハス、カウシンバラ、アヅキノハナ、カブラ、スイセン、タンポポ、ヨジリアヤメ、ダイコン、クワンサウ、ナヅナ、ハナアフヒ、(センノウ)、マツモト、アジマメ、ボタン、ケシ、アマナ、サホヒメ、ヒルカホ、トロロ(トロロアオイ)、アブラギク(ノギク)、ゴマノハナ、ハマナス、ヲキナグサ、ノイバラ、ヲグルマ、クヅノハナ、ラッカセイ、ヤマツツジ、ナス、ハマササゲ、ユリ、ケイトウ、ヒメユリ以上である。

 面白いのは、長春(コウシンバラ)、蒲公英(タンポポ)、牡丹花(ハツカグサ)、?瑰花(ハマナス)、山(ヒメ)丹花(ユリ)など今日ではまったく観賞花そのものであるが、その花々を百種集めることによって優秀な治療薬となるとの説である。

 尚本書は上野益三先生著「日本博物学史」には書名のみ記載あるも詳細記述なく、また岩波書店編「国書総目録」にも見えず、よって「幻の」を副題に冠した。巻末に巻二近刻とあるも未だ見ず。             ( )内著者補