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古今要覧稿とは、江戸幕府の祐筆(ゆうひつ)(書記官)であった屋代弘賢(やしろ ひろかた)が、幕命を受け寛政年間から彼が没する天保十二年(八十四才)までのおよそ五十年の長い期間を費やし、又多くの人々の協力を得て編纂された我国最大級の類(るい)書(内容を事項によって分類編集した書物)の一つである。同書は脱稿した部分からそれを清書し、文政四年から天保十三年までの二十二年間にわたり幕府に納入された。其の数五百六十巻に及ぶが、弘賢の没したことにより編纂作業は中断し未完に終ったが、完成すれば一千巻を越すと予測されていた。
幸にして観賞植物の項については、岩崎常正、岡村商謙らの協力によって完成されていることが嬉しい。編纂された植物は、竹類は種数が多く二十三巻で一番多く、以下桜十八、梅十、紅葉十、松九、橘・類六、椿六、萩四、蓮・まゆみ・薄(すすき)各三 撫子・朝顔・葛(くず)各二、その他一種一巻など百二十巻以上あり、全体の三分の一近くを必要とし、植物への関心の大きさを識ることができる。
さて古今要覧稿の説明が長くなったが、紅葉については全十巻を費している。紅葉一上中下三巻はすべて和歌を集め、二以降に名称、植物的事項並に名所など詳細克つ広範な書物からの引用である。
紅葉二の初めには「かへて」と題し、「かへては万葉集にはじめてみえたり蝦手あるひは加敞流天ともかけり葉のかたちをもて名とせしならん……」 本書は、江戸期には刊行されず写本によって伝えられ、明治四十年になり国書刊行会により、成稿部分五百八十四巻が、活版により六冊本として広く世に伝えられた。
「古今要覧稿」前紅葉一上中下三巻並びに同二、(幕府へ納入と同じ清書本、但し四冊のみ収蔵) |
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