極彩色マツバランのすりもの
「玉青堂愛翫竺蘭真写」
  関根雲停か 天保頃か
 
 マツバランは古生代の生残り植物で、シダ植物に分類される。日本の暖地の林床などに自生し、一見地味な目立たない植物であるが、江戸時後期、珍品奇品を愛好することが流行し、数寄者の目に止った。

 その数寄者の一人に、三河国新堀村の富豪、深見延賢、号玉青堂が、江戸で刷らせた「すりもの」が本資料である。図の作者は記載がないが、玉青堂が天保八年に出版した「松蘭譜」の図を画いた、三河の絵師、貫河堂か、江戸の関根雲停あたりであろう。画面左下角に「東都浅倉桜雄刀」とあり江戸の彫師の手になる多色刷大版の版画に仕上げられている。

 品種は右が「竜髯縮緬」左が「玉獅子」であり、上部の賛には、和歌が三首添えられている。

「わかみどり たれて象うつ けだものの
  かたちなしたる 草めづらしも」
「あをくもを もれいづる竜の 髯なれや
  みどりうづまく 草のすえ葉は」  茂雄
 松葉蘭をたちいれて
「よそにみて 誰かはすきん この草は
  はいまつばらん かづらならねど」  青村

 発行者の玉青堂は三河碧海郡新堀村は現在の岡崎市矢はぎ町のようで、一度現地を訪れ、調査したいと考えている。