フウラン絵入番附
「天下泰平風蘭七福神」
  桃花園  安政三年か
 
 夏の夕方、鉢植えの棚に水やりをしている時、ほのかな芳香に誘われて目で追うと、そこに真っ白な小花の咲くフウランにたどりつく。花作りの至福の時である。

 さてそのフウランは、日本原産のラン科植物のひとつで北は東北地方から、南は沖縄や奄美大島まで広く分布し、台湾、中国にも自生する着生多年草である。花は小さいが唇弁は長く管状に発達した距(きょ)があり、神秘性を感じさせる。

 栽培植物として注目され始めたのは、江戸時代寛文年間(一六七〇年頃)の園芸書に登場し、文化文政期以降奇異な姿、形をしたものに注目が集まり、フウランもその一員として大きく品種分化が進み、愛好家が集まり、花連をつくって情報交換した。そうした情報交換の一手段として植物の番附がつくられ、今回紹介する「天下泰平風蘭七福神」もそうしたものの一つである。

 作者は桃花園なる人で画並びに讃を書いている。年代は直接書き入れはないが、讃の和歌に、「うし事は みな吹はらふ 風らんの よろずなからを とらの初春」とあり
類似資料から、このとら年を安政三年(1856)と考える。

 和歌に続く本文が面白いので転記しておく。
「神仏も好み給ふ金のなる植木とは 堪忍つよ木 慈悲ふか木 家内むつまじ木 萬(よろず)ほどよ木 おごりな木 しんぼうつよ木 しょうじ木 是らの木を心にかけて植置 一生ながめてくらせば 福徳自在の楽しみありと聞故、今風蘭七福神とあらはし其君子の笑ひを述るのみ」
図中七福神に見立てた品種は次の通り