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本書の著者は、本草学者であり画家でもあった、紀州藩士坂本浩然であり、天保六年八月、五快楼蔵版により上下二冊美濃版大本として版行された。多くの流布本は木版墨刷に手採色が施され美しい本であるが、当文庫本は著者の弟子に当り、後明治の偉人として知られる南方熊楠の師でもあり、華族女学校の教師でもあった島山啓の自筆写本で上下合本一冊である。
内容は食用となるキノコ類、毒キノコ類、霊芝などの芝類に分けられているが、毒キノコ類の中にヒカゲダイ、ナンバンギセル(ギンリョウソウ)、ハナウツボ、オニノヤガラなど現在では菌類に分類しない植物も加えられているが、当時の分類大系ではやむを得まい。
図の第一番目はマツタケが記載され、江戸時代から日本人にとってはキノコの王様はマツタケであったようだ。続いて「サマツダケ」で「状千松蕈に似テ肥厚 香気ナシ 五月六月多ク生ズ 小毒アリ 多ク食スベカラズ」とある。
又マイタケ類は四種の記載あり
「マイタケ 重菰 題頭菌 状大小一ナラズ 其形宛トシテ舞人ノ如シ故ニ名リ 或云熊此菌ヲ見テ舞ヒ能好テコレヲ食フ 味甘平毒ナシ 種多シ 痔を患ウル人食スレバ効アリ」と説かれている。近年この類は人工培養が盛んで程んど周年八百屋やスーパーマーケットに並ぶ、痔疾にお悩みの方はおためしあれ。
その他シイタケは自然のものあり、人造のものありと記し当時すでに人工培養の技術が一般化していたとも考へられる。
見開き 右目次 左マツダケ
松蕈一名松茸東医宝鑑
松林中ニ生ス故ニ松気アリ 蓋赭褐色蕈中ノ佳品ナリ 生スル處必芳香人ヲ襲フ 其ノ處白 ヲ生ス 白皮ノ如クコレヲ穿テハ横臥スルモノ徐々トシテ貫出ス 味甘平毒ナシ
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