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日本は世界中で最も美しいユリの種類が多く自生している。思いつくままに並べてみてもヤマユリ、サクユリ、スカシユリ、ヒメユリ、オトメユリ、ササユリ、オニユリ、コオニユリ、カノコユリ、ハカタユリ、クルマユリ、タモトユリ、テッポウユリなど。何れをとっても色、形、香り、他花に優れ、これらの花々が近世ヨーロッパヘ紹介されたとき、彼の地の人々をどれ程驚かし、又日本へのあこがれをいだかせたことであろう。
ヤマユリの変種として花弁の中心部の黄色部が赤に変わった 「ベニスジ」やカノコユリの白花種「峰の雪」。オニユリの八重咲きなどは古くから知られた銘品といえよう。
こうした数々の品種を集めて図譜とした江戸期の図譜の一つ「天香図譜」を紹介する。本書は慶応二年(1866)竹本右亭によって画かれた稿本である。石亭は江戸の人、文政五年の生まれ、相澤石湖に就いて画を学び、和歌は平田篤胤に、漢学は昌平侏にて修め、画文共に優れた人と聞く。
本書題「天香」とは中国のユリの別名。折帖に仕立てられ、文二面、図十面、各図には種名、地方名、漢名など詳細な記述が附されている。
この書物は恩師清水基夫先生(世界的ユリの研究者)旧蔵になり、平成二年先生の遺言により小生が受贈した。以降この本に触れる時、先師に逢い身が引締まる思いがする。
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